「そろそろお墓参りに行かなくては」 そう思い立ったものの、手帳やカレンダーに書かれた「先負」や「仏滅」の文字がふと目に入り、なんだかためらってしまう…。
あなたにも、そんな経験はありませんか?
「結婚式は大安吉日」「お葬式は友引を避ける」といった習慣が深く根付いている日本では、「お墓参りにも、ふさわしくない日があるのかもしれない」と心配になるのは、ごく自然なことです。
親戚から何か言われるかも、と不安になる方もいらっしゃるでしょう。
でも、ご安心ください。
その心配は、今日で終わりにしましょう。
この記事では、お墓参りと「六曜(ろくよう)」の気になる関係を、どこよりも深く、そして分かりやすく解説します。
「いつ行けばいいの?」という基本的な疑問から、ご先祖様がもっと喜んでくれるお参りの作法まで、あなたのすべてのお悩みをスッキリ解決します。
【結論】お墓参り、六曜は一切気にしなくて大丈夫です!
いきなり結論からお伝えします。
先負であろうと、仏滅であろうと、友引であろうと、お墓参りに行ってはいけない日は一日もありません。
「え、でも”仏が滅する”って書いてあるのに、仏事であるお墓参りをしていいの?」と疑問に思うのも無理はありません。
しかし、その理由は驚くほどシンプルです。
お日柄の良し悪しを示す指標である「六曜」と、私たちがご先祖様を供養する「仏教」は、全く異なるルーツを持つ、いわば他人同士なのです。
例えるなら、イタリア料理のシェフに「美味しい巻き寿司の作り方を教えてください」と尋ねているようなもの。
どちらも素晴らしい文化ですが、専門分野が全く異なります。
ですから、六曜のルールを仏教の行事に当てはめる必要は、本来どこにもないのです。
あなたの都合の良い日、そして「ご先祖様に会いに行きたい」と思い立ったその日が、最高のお墓参り日和と言えるでしょう。
なぜ気になる?六曜とご先祖供養の「誤解」の歴史
そうは言っても、なぜこれほどまでに六曜が私たちの生活に影響を与えているのでしょうか。
その歴史を少し紐解いてみると、誤解が生まれた背景が見えてきます。
六曜は、もともと中国で時刻の吉凶を占うために使われていた考え方で、日本には鎌倉時代から室町時代にかけて伝わったとされます。
しかし、日本に伝わってからがユニークでした。
名称や意味合いが少しずつ変化し、現在のように「その日の吉凶」を占うものとして定着したのは、意外にも戦後のことなのです。
特に誤解を生んだのが「仏滅」という言葉。
実はこれ、もともとは「物滅」と書かれていました。
「古い物が一度滅び、新しい物事が始まる日」という意味で、リセットや再スタートに適した日と考えられていたのです。
それがいつしか「仏」という字が当てられ、字面のイメージから「仏も滅する大凶日」という、本来の意味とはかけ離れた解釈が広まってしまいました。
このように、単なる語呂合わせや後付けのイメージが、長い年月をかけて私たちの習慣に深く染み込んでいったのです。
「でも、やっぱり気になる…」そんなあなたへ。六曜との上手な付き合い方
理屈では分かっていても、長年の習慣や周囲の目が気になる、という方も多いでしょう。
ここでは、それぞれの六曜が持つ本来の意味を知り、ポジティブにお墓参りと結びつけるヒントをご紹介します。
先負(せんぶ・さきまけ):午後の穏やかな吉日
「先んずれば即ち負け」という意味から、午前は凶、午後は吉とされます。
「急用や勝負事は避けるべき日」とも言われますが、見方を変えれば「慌てず、騒がず、穏やかに過ごすのが良い日」と捉えられます。
午前中に家事を済ませ、午後からゆっくりとご先祖様に会いに行く…。
そんな落ち着いたお墓参りには、まさに最適な一日ではないでしょうか。
友引(ともびき):故人との絆を深める日
「友を冥土に引き込む」という怖いイメージが独り歩きし、お葬式が避けられる日。
しかし、お墓参りは故人を弔う儀式ではなく、故人との対話の時間です。
「友を引く」をポジティブに捉え、「友人(自分)が、故人のいる場所に会いに行く日」と考えてみてはいかがでしょうか。
「おじいちゃん、こんなことがあったよ」と近況報告をすれば、故人との絆がより一層深まることでしょう。
仏滅(ぶつめつ):リセットと再生の日
前述の通り、本来は「物滅」。
すべてがリセットされ、新たな始まりを迎える日です。
日々の忙しさや悩みを一旦リセットし、まっさらな気持ちでご先祖様と向き合う日と考えてみましょう。
古い慣習に囚われず、清々しい気持ちで感謝を伝えるには、これ以上ないほどふさわしい日かもしれません。
お墓参りに最適な時期は?ご先祖様と心を通わす特別なタイミング
「いつ行っても良い」と言われても、やはり節目にはお参りしたいもの。
ここでは、多くの人がお墓参りに訪れる代表的な時期と、その素敵な意味をご紹介します。
- 命日・月命日:
故人のためのパーソナルな記念日
年に一度、故人が亡くなった月日である「祥月命日(しょうつきめいにち)」と、毎月訪れる命日の「月命日」。
これらは、故人を偲ぶための最も大切な日です。 - お彼岸(春・秋):
あの世とのホットラインが開通する7日間
春分の日と秋分の日を中日とした前後3日間、合計7日間がお彼岸です。
この期間は太陽が真東から昇り真西に沈むため、私たちが住むこの世(此岸)と、ご先祖様のいるあの世(彼岸)の距離が最も近くなると考えられています。
ご先祖様へ想いが届きやすい、スピリチュアルな期間なのです。 - お盆:
ご先祖様を「お客様」としてお迎えする期間
ご先祖様の霊が、年に一度「お客様」として家に帰ってくるとされる大切な行事。
盆の入りには「ようこそ」の気持ちを込めてお墓へお迎えに行き、盆の明けには「また来年」と感謝を込めてお見送りをする。
日本人の美しい死生観が表れています。 - 年末年始や人生の節目:
感謝と報告を伝えるタイミング
家族や親戚が集まる年末年始に、一年間の感謝を込めて皆でお参りするのも良い習慣です。
また、入学、就職、結婚、出産といった人生の大きな節目に「おじいちゃん、私、結婚するよ」と報告に行くことは、何よりのご先祖様孝行となるでしょう。
あなたの幸せこそが、ご先祖様にとって最高の供養なのです。
これだけは押さえたい!ご先祖様が喜ぶお墓参りの基本マナー
さあ、行く日が決まったら、次は準備です。
気持ちよくお参りするために、基本のマナーと手順を丁寧におさらいしましょう。
服装:敬意を表す身だしなみ
普段のお参りであれば、派手すぎないカジュアルな服装で構いません。
ただし、仏教の「不殺生(ふせっしょう)」の教えから、動物の毛皮(ファー)や、ヘビ・ワニ革、アニマル柄などは避けるのがマナーです。
この日ばかりは、ご先祖様への敬意をファッションの第一に考えましょう。
法要などの改まった場では、もちろんフォーマルな服装が基本です。
持ち物リスト:感謝を形にするアイテム
- お参りセット:
線香、ろうそく、マッチやライター、数珠、お花、お供え物- お供え物は「ご先祖様へのお土産」と考え、故人が好きだったお菓子や果物、飲み物などを用意すると喜ばれるでしょう。
- お掃除セット:
軍手、タオル(雑巾)、スポンジ、小さなブラシ(歯ブラシも便利)、ゴミ袋- バケツや柄杓は、霊園の水道で借りられることがほとんどです。
お参りの手順:心を込めた一連の流れ
- ご挨拶:
まずは本堂のご本尊様(いらっしゃる場合)にご挨拶。
その後、お墓の前で静かに一礼し、合掌します。 - お掃除(供養の第一歩):
ご先祖様が気持ちよく過ごせるよう、心を込めてお掃除をします。
雑草を抜き、落ち葉を拾い、墓石を水で濡らしたタオルやスポンジで優しく磨き上げます。
彫刻の細かい部分は歯ブラシなどが便利です。 - 打ち水:
清らかな水を墓石の上からかけ、場を清めます。
(※宗派や地域、石材によっては行わない方が良い場合もあります) - お供え:
持参したお花やお供え物をきれいに飾ります。 - お線香:
ろうそくで火をつけ、束になったお線香をあげます。
故人と縁の深い人から順に行いましょう。
この時、墓石よりも自分の頭が低くなるようにしゃがんで合掌するのが、丁寧で美しい作法です。
日頃の感謝や報告したいことを、心の中で静かに語りかけましょう。 - 後片付け:
お参りが終わったら、お供え物は持ち帰るのが現代のマナーです。
カラスなどに荒らされてお墓が汚れるのを防ぐためです。
(仏教では、ご先祖様は「香り」を召し上がる(食香)と考えられており、形として残った物は感謝して持ち帰り、皆でいただくのが良いとされています)。
ゴミも必ず持ち帰りましょう。
まとめ:一番大切なのは、日柄よりも「あなた自身の心」です
六曜と仏教は、全くの別物。
だから、先負の日にお墓参りをしても、何の問題もありません。
最も避けたいのは、日柄や形式を気にしすぎるあまり、お墓参りそのものから足が遠のいてしまうことです。
大切なのは、形式に縛られることではなく、「ご先祖様に会いに行きたい」「感謝を伝えたい」という、あなた自身の素直な気持ちです。
もちろん、ご親族の中には今でも日柄を大切にされる方がいらっしゃるかもしれません。
皆で集まる際には、日程を相談し、全員が晴れやかな気持ちでお参りできるよう配慮する心遣いも、また一つの立派な供養と言えるでしょう。
この記事が、あなたの心の中のモヤモヤを晴らし、清々しい気持ちでお墓参りへ向かうための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。