なぜ除夜の鐘は108回?ゴーンと響く音に隠された、心を整えるメッセージ

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慌ただしく過ぎていく日常。

スマートフォンの通知音や街の喧騒に囲まれる中で、ふと、どこからか聞こえてくるお寺の鐘の音に足を止めたことはありませんか?

「ゴーン…」

体の芯まで染み渡るような、重く、それでいて澄み切った響き。

それは単なるノスタルジーではなく、現代を生きる私たちに大切な何かを思い出させてくれる、不思議な力を持っています。

実は、あの厳かな鐘の音には、ただ時を告げるだけではない、古くから受け継がれてきた深い意味と物語が込められています。

それは、私たちの心をそっと解きほぐしてくれる、先人たちの知恵の結晶ともいえるメッセージなのです。

この記事を読めば、次に鐘の音を耳にしたとき、その響きが今までとはまったく違う、豊かで感動的な音色に聞こえるはず。

さあ、一緒に時を超えた鐘の音の旅へと出かけましょう。

ゴーンという音色は、いつ聞こえてくる?

お寺の鐘は、決して気まぐれに鳴らされているわけではありません。

私たちの生活のリズムや、季節の節目にそっと寄り添うように、その音色を響かせています。

1日の始まりと終わりを告げる「朝夕の鐘」

夜の闇が白み始める頃、凛とした空気の中、厳かな鐘の音が響き渡り、新しい一日の始まりを告げます。

それは、まだ眠りの中にいる町全体が、ゆっくりと呼吸を始め、目覚めていくための合図のようです。

そして、茜色に染まる空に家路を急ぐ夕暮れ時。

再び響く鐘の音は、一日の仕事や学びを終えた人々の心を労い、今日の喜びや悲しみを静かに受け止めてくれるかのよう。

けたたましいアラームではなく、心に染み入る鐘の音で一日を始め、終える。

そこには、時間に追われるのではなく、時間と共に生きるという、豊かな暮らしのヒントが隠されています。

誰もが知る、1年を締めくくる「除夜の鐘」

お寺の鐘と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが、大晦日の夜に鳴り響く「除夜の鐘」でしょう。

凍えるような冬の夜、人々の祈りを乗せて、一打、また一打と大切につかれていく鐘の音。

この鐘が、なぜ「108回」なのかご存知ですか?

仏教では、私たち人間には「煩悩(ぼんそう)」が108つあると考えられています。

煩悩とは、私たちの心を悩ませ、苦しみを生み出す根源となる欲望や執着のこと。

例えば、
人を妬む気持ち(嫉妬)、
物事を先延ばしにしてしまう怠惰な心(懈怠)、
自分の意見ばかりを押し通そうとする頑固さ(我執)
など、誰もが心のどこかに持っている感情です。

除夜の鐘は、この108つの煩悩を一つひとつ打ち消すために鳴らされます。

古い年のうちに一年分の心の垢を洗い流し、まっさらで清らかな気持ちで新しい年を迎えるための、壮大なデトックスなのです。

ちなみに、107回までは旧年中に、そして最後の1回は、新年が煩悩に惑わされない素晴らしい一年になるようにという願いを込めて、年が明けてからつかれることが多いと言われています。

鐘の響きが教える、大切な「心のあり方」

鐘の音は、単なる合図や儀式だけではありません。

その響き方そのものに、仏教の根幹をなす、私たちがより良く生きるための大切な教えが隠されています。

響いては消える音色が象徴する「諸行無常」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり

これは、あまりにも有名な『平家物語』の冒頭の一節です。

「諸行無常(しょぎょうむじょう)」とは、「この世のすべてのものは、絶えず移り変わり、永遠に同じ状態であり続けることはない」という仏教の根本的な教えです。

春に咲き誇った桜がやがて散り、緑豊かな夏が過ぎれば、色鮮やかな秋が訪れ、そして静かな冬がやってくる。

私たちの人生も同じです。

楽しい時間も、辛く苦しい時期も、いつまでも続くことはありません。

お寺の鐘の音もまた然り。

「ゴーン…」と力強く響いた音は、美しい余韻を残しながらも、やがて空気に溶け込むように静かに消えていきます。

この、鳴り響く「生」と、消えゆく「滅」のドラマこそが、「諸行無常」の世界観そのもの。

鐘の音は、変化を恐れるのではなく、それを受け入れ、「今、この瞬間」を大切に生きることの尊さを、私たちに無言で語りかけているのです。

文豪も魅了された鐘の風景

鐘の音は、古くから日本人の感性を刺激し、多くの文学作品にインスピレーションを与えてきました。

その代表格が、正岡子規のこの一句です。

柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺

奈良の古刹・法隆寺を訪れた子規。

茶店で名物の柿を一口食べた、まさにその瞬間、ゴーンと厳かな鐘が鳴り響く。

高く澄み渡る秋の空、歴史の重みを感じさせる寺の佇まい、そして心に染み渡る鐘の音。

たった十七文字の言葉から、まるで時が止まったかのような、美しく静謐な情景が目に浮かびませんか?

この句は、鐘の音が単なる音ではなく、日本の美しい風景や文化と分かちがたく結びついていることを、鮮やかに描き出しています。

ちょっと知りたい、鐘の豆知識

最後に、お寺の鐘にまつわる、知っていると寺社巡りが何倍も楽しくなる豆知識をいくつかご紹介します。

鐘をつく棒「撞木(しゅもく)」の秘密

お寺の鐘をつく、あの太い木の棒は「撞木(しゅもく)」と呼ばれます。

T字型をしており、魚がぶら下がっているように見えることから、サメの和名「撞木鮫(しゅもくざめ)」の語源にもなったとか。

素材には主にシュロの木が使われ、硬すぎず柔らかすぎず、鐘本体を傷つけることなく、そのポテンシャルを最大限に引き出す美しい音色を生み出す工夫が凝らされています。

鐘の音に「癒やし効果」がある科学的根拠

鐘の音を聞くと心が落ち着くのは、気のせいではありません。

お寺の鐘の音に含まれる「1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)」という周波数のリズムは、実は小川のせせらぎ、そよ風、木漏れ日など、自然界の心地よいリズムと同じもの。

完全に規則的だと退屈に感じ、完全にランダムだと不安になる。

その中間にある「規則性と不規則性が絶妙に混じり合ったリズム」が、私たちの脳波をリラックスした状態(α波)に導き、深い安らぎを与えてくれるのです。

鐘そのものにも見どころがたくさん!

お寺の鐘は、正式には「梵鐘(ぼんしょう)」と言います。

今度お寺に行ったら、ぜひその姿をじっくり観察してみてください。

鐘を吊り下げる部分は「竜頭(りゅうず)」と呼ばれ、その名の通り龍の形をしています。

また、表面にあるたくさんのイボイボは「乳(ち)」と呼ばれ、音の響きを美しく調整する役割があると言われています。

鐘一つひとつに、職人たちの技と祈りが込められているのです。

まとめ丨鐘の音に、心を澄ませてみませんか?

お寺の鐘の音に込められた、様々な意味や物語。

その奥深い世界に触れてみて、いかがでしたでしょうか?

回数の意味を知り、その響きに隠された教えを感じることで、何気なく聞いていた鐘の音が、きっともっと特別なものに感じられるはずです。

鐘の音は、時代を超えて人々が何を大切にし、何を祈ってきたのかを伝える、壮大なタイムカプセルのようなものかもしれません。

次にどこかから鐘の音が聞こえてきたら、ぜひ一度立ち止まって、その音色に静かに心を澄ませてみてください。

千年の時を超えて受け継がれてきたメッセージが、あなたの心に優しく響き渡り、忙しい日々に一筋の光と、明日へ向かうための穏やかな力を与えてくれるはずです。

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