涼しい夜風が頬をなで、虫の音が心地よく響き渡る秋の夜。
ふと空を見上げれば、ひときわ明るく、凛とした光を放つお月様が、私たちを優しく照らしてくれています。
日本には古くから、この一年で最も美しい月をじっくりと眺めて楽しむ「十五夜(じゅうごや)」という、風情あふれる習慣があります。
「どうしてお団子をお供えするの?」
「ススキは何のために飾るの?」
「お月様には、どうしてうさぎさんがいるの?」
お子さんのそんな素朴でキラキラした疑問に、あなたは自信を持って答えられますか?
この記事を読めば、十五夜の背景にある歴史や物語がわかり、きっと次のお月見が何倍も楽しく、待ち遠しくなるはずです。
さあ、親子で楽しむ十五夜の奥深いひみつの世界へ、ご案内します。
十五夜ってどんな日?~自然への感謝と、月を愛でる日本の心~
十五夜とは、一言でいえば「秋の収穫をお祝いし、美しい月を見ながら自然の恵みに感謝する日」です。
昔の人が使っていた「旧暦」という月の満ち欠けを基準にしたカレンダーで、8月15日の夜に見える月のことを指します。
ちょうど秋の真ん中にあたるため「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」とも呼ばれ、空気が澄み渡るこの季節は、月が最も美しく見えるとされてきました。
この風習の起源は古く、平安時代の貴族たちが中国から伝わった観月の宴を開き、月を眺めながら詩を詠んだり、音楽を奏でたりした雅な遊びにあります。
それが時代とともに庶民にも広まり、農作物の収穫時期と重なることから、神様やご先祖様への豊作祈願や収穫感謝のお祭りへと変化していったのです。
月をただ美しいと感じるだけでなく、そこに神聖さや感謝の念を見出す。
十五夜は、そんな日本人ならではの自然観が育んだ、心豊かな文化の結晶と言えるでしょう。
お供え物に隠された願いを知れば、お月見はもっと楽しくなる!
お月見といえば、月見団子やススキを飾るのが定番です。
一つひとつの品には、昔の人の温かい願いが込められています。
その意味を知ると、お供えの準備も特別な時間に変わりますよ。
まんまるな「月見団子」
月に見立てた真っ白で丸いお団子は、収穫への感謝と、家族の健康や幸せを願う気持ちの象徴です。
お団子の数は、十五夜にちなんで15個、あるいは一年間の満月の数である12個(うるう年は13個)をピラミッドのように積むのが伝統的。
地域によっては、関西地方のように里芋を模してあんこを巻いたお団子もあり、その土地ならではの文化が感じられて面白いですね。
《子どもへの伝え方ヒント》
「見て、お団子がお空のお月様とそっくりだね。このまんまるな形には『みんながずっと元気に、幸せに過ごせますように』っていう大切なお願い事が詰まっているんだよ。」
黄金色に輝く「ススキ」
秋の野原に揺れるススキは、なぜお月見に欠かせないのでしょうか?
昔の人々は、ススキの鋭い切り口に魔除けの力があると信じ、家の軒先に吊るして災いから家族を守ってもらおうとしました。
また、その姿がたわわに実った稲穂によく似ていることから、お米がたくさんとれるようにという豊作への願いも込められています。
神様が地上に降りてくるときの目印(依り代)として、お月様への感謝の気持ちを表す、とても大切な飾りなのです。
採れたての「里芋」や「ぶどう」
十五夜の時期に旬を迎える里芋やぶどうなどの収穫物もお供えします。
そこには「今年もこんなにたくさんの実りをありがとうございます」という、農家の人々の素朴でストレートな感謝の気持ちが表れています。
このことから、十五夜は別名「芋名月(いもめいげつ)」とも呼ばれるんですよ。
特にぶどうのようなツル性の植物は、「お月様との繋がりが強くなる」という縁起物としても喜ばれます。
ワクワクする風習「お月見どろぼう」
地域によっては、十五夜のお供え物を子どもたちがこっそり盗んでも良い、という「お月見どろぼう」というユニークな風習が残っています。
これは、子どもたちを「お月様からの使者」と考え、お供え物を食べてもらうことで、神様が喜んで受け取ってくれたと見なしたため。
「お月様からの幸せのおすそ分け」をいただく、子どもたちが主役の楽しいイベントだったのです。
なぜ月にうさぎが?~心優しいうさぎの、ちょっと切なくて温かい物語~
世界中には月にまつわる神話や伝説がたくさんありますが、なぜ日本では「月にうさぎがいて、お餅つきをしている」と語り継がれているのでしょうか。
これには、インドから伝わった仏教のお話がもとになった、こんな物語があるのです。
昔々、あるところに、物知りのサル、賢いキツネ、そして心優しいウサギの3匹が、とても仲良く暮らしていました。
ある日、疲れ果ててお腹を空かせた一人の老人が倒れているのを3匹が見つけます。
「なんとかしてこの方をお助けしたい!」そう考えた3匹は、それぞれ食べ物を探しに駆け出しました。
サルは得意の木登りで栄養満点の木の実を、キツネは自慢の俊足で川の魚を捕って、それぞれ老人の元へ誇らしげに持って帰ってきました。
しかし、ウサギだけは、どんなに一生懸命に野原を駆け回っても、食べ物を見つけることができません。
何もできずに仲間たちが活躍するのを見ていたウサギは、自分の無力さに深く心を痛め、悩んだ末に一つの決意をします。
「私には何も差し上げられるものがありません。ですから、どうかこの私を食べて、元気になってください」
そう言うと、ウサギは自ら燃え盛る火の中へとその身を投じ、自分の命を老人に捧げたのです。
実は、この老人、天の神様である帝釈天(たいしゃくてん)が、動物たちの心を試すために姿を変えたものでした。
帝釈天は、自分の身を犠牲にしてまで他者を救おうとしたウサギの尊く優しい心に深く、深く心を打たれました。
「お前のその類まれな美しい心を、未来永劫、誰もが決して忘れることのないようにしよう」
帝釈天は、その神通力でウサギを月の中へと昇らせ、その姿を永遠に刻みつけました。
今でも月の中で見えるうさぎの姿は、この心優しいうさぎの物語を、私たちに静かに語りかけてくれているのです。
月で餅つきをしているように見えるのは、「食べ物に困っている人がいなくなるように」と、優しいウサギが今もなお、私たちのために働いてくれている姿なのかもしれませんね。
まとめ
十五夜は、ただ美しい月を愛でるだけの行事ではありません。
秋の豊かな実りに感謝し、自然の大きな営みに思いを馳せ、そして家族や大切な人との繋がりを再確認する、日本の素晴らしい文化です。
お供え物の意味や、月にいるうさぎの心温まる物語を知ると、夜空を見上げる時間がもっと豊かで特別なものに感じられませんか?
次の十五夜には、ぜひご家族でお団子をいただきながら、ゆっくりと空を見上げてみてください。
そして、お子さんに心優しいうさぎの物語を、ぜひあなたの言葉で話して聞かせてあげてください。
きっと、いつものお月様が、より一層優しく、物語に満ちた温かい光を放って見えるはずです。