道端に咲くかれんな花、大切な人へ贈るブーケ。
私たちの心を豊かにしてくれる花の存在ですが、中には「縁起が悪い」「家に飾ってはいけない」なんて、少し怖いウワサを持つものがあるのをご存知でしょうか。
「きれいなのに、どうして?」
「昔から言われているけど、本当のところは?」
そんな疑問を抱いたあなたへ。
今回は、ちょっぴり不名誉なレッテルを貼られてしまった花たちの、知られざる物語を紐解いていきます。
そのウワサの裏側には、歴史や文化、そして人々の想いが隠されていました。
読み終える頃には、きっとその花のことがもっと好きになるはずです。
日本で「縁起が悪い」と言われる花々のウワサと真実
まずは、私たちの暮らしに身近な花たちから。
なぜ、そんなふうに言われるようになってしまったのでしょうか。
椿(ツバキ)|武士が恐れた「潔すぎる」散り際
冬の寒さにも負けず、艶やかな花を咲かせる椿。
しかし、「花が首からポトリと落ちる様子が、打ち首を連想させる」という話、有名ですよね。
このイメージが定着したのは、武士の時代。
散り際さえも美しく潔い椿の姿が、かえって死を彷彿とさせるとして、特に武家では避けられるようになりました。
しかし、それはあくまで武士の価値観が生んだ一面的なストーリー。
古くは万葉集にも詠まれ、雪の中でも緑を絶やさない生命力の強さから「聖なる木」とされてきました。
かの有名な正倉院には、椿で作られた魔除けの杖が納められているほどです。
美しさと生命力を兼ね備えた、本来はとても縁起の良い花なのです。
紫陽花(アジサイ)|移ろう花色に隠された、もう一つの顔
雨の季節を彩る紫陽花。
「移ろいやすい花の色が、心変わりを連想させる」ため、お祝い事には不向きと言われることがあります。
また、昔は医療が未発達で、長雨の続く梅雨時期は病が流行りやすかったため、その時期に咲く紫陽花が死を連想させた、という説も。
ところが、風水の世界では「悪い気を吸い取ってくれる」とされ、特に玄関に飾ると金運を呼び込むラッキーアイテムとも言われています。
一つのイメージに縛られず、その時々の美しさを楽しむのが、紫陽花との素敵な付き合い方かもしれません。
彼岸花(ヒガンバナ)|その毒は、大切なものを守るためだった
お彼岸の頃、田んぼのあぜ道やお墓の近くで、燃えるような赤色の花を咲かせる彼岸花。
「死人花」「地獄花」といった不吉な別名もあり、少し怖いイメージを持つ方も多いでしょう。
実はこの花、球根に毒を持っています。
その理由は、土を掘り返してしまうモグラやネズミから、ご先祖様が眠るお墓や、大切な作物を守るため。
つまり、彼岸花は古くから私たちの暮らしを守ってきた「ガードマン」のような存在だったのです。
仏典では「天界に咲く花」を意味する「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」とも呼ばれ、吉兆のシンボルとされています。
菊(キク)|お悔やみだけじゃない、最高位の「高貴な花」
「お葬式の花」というイメージが強い菊。
確かに、お供えの定番ですが、それは菊が「長持ちする」「香りが邪気を払う」といった素晴らしい力を持つからこそ選ばれてきた背景があります。
忘れてはならないのが、菊が日本の国花であり、皇室の御紋でもあるということ。
パスポートの表紙を飾るのも菊の紋章です。
古来より「高貴」「長寿」の象徴とされ、9月9日は「菊の節句(重陽の節句)」として、菊を飾り健康長寿を願う風習があるほど、実はおめでたい花の代表格なのです。
藤(フジ)|「下がる」のではなく「実る」稲穂の象徴
優雅に垂れ下がる姿が美しい藤の花。
「運気が下がる」と連想されたり、「フジ」という音が「不治」を思わせるため、庭に植えるのは良くないという俗説があります。
しかし、これも見方を変えれば全く違う意味になります。
力強く伸びるツルは「長寿」や「子孫繁栄」の象徴。
垂れ下がる花の房は、豊かに実る「稲穂」に見立てられ、古くから豊作を願う縁起の良い花として愛されてきました。
着物の柄や家紋にも多く使われているのが、その証拠です。
他にもこんな花たちが…
- 百日紅(サルスベリ):
「滑る」「落ちる」という言葉が受験などに不向きとされますが、名前の通り「百日間も咲き続ける」エネルギーに満ちた花です。 - 枇杷(ビワ):
葉が薬として重宝されたため「病人が集まる」と噂されましたが、それは優れた効能を持つがゆえの誤解です。 - 蓮(ハス):
仏様の台座であることからも分かるように、泥の中から清らかな花を咲かせる「悟り」や「清浄」の象徴。
決して不吉な花ではありません。 - 梔子(クチナシ):
実が開かないことから「口無し」という名が付き、縁談に良くないとされましたが、西洋では「天使が運んだ花」としてウェディングブーケに使われる、幸せのシンボルです。
世界に広がる花のタブー|日本ではOKでも、海外ではNG?
文化が違えば、花の常識も変わります。
海外で贈り物にする際に、知っておくと安心な花のタブーを少しご紹介しましょう。
- 黄色い花(ロシア):
日本ではビタミンカラーで元気なイメージの黄色ですが、ロシアでは「別れ」「嫉妬」の象徴とされるため、贈り物には避けるのが無難です。 - カーネーション(フランス・ロシア):
母の日の定番ですが、特に赤いカーネーションは、ヨーロッパの一部ではお墓に供える花とされています。
イエス・キリストが処刑された後、聖母マリアの涙から咲いたという言い伝えがあるためです。 - ユリ(キリスト教圏):
白いユリは聖母マリアの「純潔」を表す神聖な花であると同時に、お悔やみの場でも頻繁に使われるため、「死」を連想させる花と捉えられることもあります。 - ジャスミン(中国):
ジャスミンの中国名「茉莉花(モーリーファ)」の「莉」の発音が、「離別」の「離」と似ているため、贈り物には不向きとされています。
しかし、その語源はペルシャ語で「神からの贈り物」。
インドでは結婚式に欠かせないおめでたい花です。
まとめ:大切なのは、あなたの心がどう感じるか
いかがでしたか?
「縁起が悪い」と言われる花たちの多くは、その背景を探ると、特定の時代の価値観や、言葉の響き、あるいはその優れた力がきっかけとなった誤解から生まれたウワサであることが分かります。
もちろん、お祝いやお見舞いなど、相手の気持ちを考えるシーンでは、こうした背景を知っておくことも大切です。
しかし、あなたが個人で花を愛でる時、一番大切にしたいのは「きれいだな」「心が和むな」と感じる、あなた自身の素直な気持ちです。
花の美しさを純粋に楽しむ心こそが、きっと最高の「福」を呼び込んでくれるはずですよ。