大切な方が旅立たれ、深い悲しみの中で、慌ただしく葬儀の準備を進めなければならない。
何から手をつけていいか分からない中、ふと目にしたカレンダーの隅にある「赤口(しゃっこう・しゃっく)」の文字。
「この日にお葬式をあげても、本当に大丈夫なのだろうか…」
そんな不安や疑問を抱えているかもしれません。
ご安心ください。
先に結論からお伝えします。
赤口にお葬式やお通夜を執り行うことに、まったく何の問題もありません。
この記事では、なぜ大丈夫と言えるのか、その理由を深く掘り下げるとともに、私たちが昔から何となく気にしている「お日柄」の正体と、弔事にまつわるウソ・ホントを徹底解説します。
読み終える頃には、自信を持って日程を決められるようになっているはずです。
【基礎知識】そもそも「六曜」とは何か?宗教との関係は?
まず、すべての基本となる「六曜」について理解を深めましょう。
六曜の正体は「暮らしの占い」
カレンダーに記されている「大安」「仏滅」「赤口」などを、まとめて「六曜(ろくよう/りくよう)」と呼びます。
これは古代中国で生まれた、時刻の吉凶を占うための考え方がベースになっています。
かの有名な三国時代の軍師・諸葛孔明が発案したという伝説もあるほど、その歴史は古いものです。
日本には鎌倉時代から室町時代にかけて伝わり、江戸時代になると民衆の間に広く浸透しました。
しかし、ここで最も重要なのは、六曜はあくまで民間の暦(こよみ)に書かれた占いの注釈であり、仏教や神道といった宗教とは一切関係がないという事実です。
仏教の教えでは、お釈迦様が「物事の吉凶は、その人の行いによって決まるのであり、日にちに良いも悪いもない」と説いています。
そのため、お寺が六曜を理由に葬儀を断ることはありませんし、気にする必要がないのです。
天気予報や星占いのように、暮らしに根付いた文化・参考情報の一つ、と捉えるのが最も正確な理解です。
「赤口」とはどんな日?葬儀への影響を徹底解説
それでは、本題の「赤口」について、その意味や由来を詳しく見ていきましょう。
「赤口」の由来は、恐ろしい鬼の伝説
赤口は、六曜の中でも「仏滅」に次ぐ「凶日」とされています。
その由来は「赤舌神(しゃくぜつしん)」という鬼神に仕える「羅刹鬼(らせつき)」という鬼の伝説にあります。
この鬼は人々を悩ませ、万事に災いをもたらす、非常に縁起の悪い存在とされていました。
そのため、赤口の日はこの鬼の力が増すと考えられ、特にお祝い事や何か新しいことを始める日としては、万全を期して避けるべきとされてきたのです。
また、「赤」という漢字が「血」や「火」を連想させることから、「刃物や火の扱いに注意する日」「契約ごとなど争いの元になりやすいことは避けるべき日」とも言われます。
「正午だけ吉」の俗説も、弔事では無関係
そんな恐ろしい鬼ですが、唯一、午の刻(うまのこく)、つまり現代の午前11時頃から午後1時頃までの間だけは、休憩のために眠っていたと言われています。
鬼が休んでいるこの2時間だけは凶事が起きない、ということから「赤口は正午だけは吉」という説が生まれました。
しかし、これもあくまでお祝い事などに対する考え方です。
故人を悼むお葬式や法事は、縁起を担ぐ行事ではありませんので、この時間帯にこだわる必要はまったくありません。
ご遺族や遠方からの参列者の都合、火葬場の予約時間などを最優先して、最適な時間を設定しましょう。
四十九日などの法事も、もちろん問題なし
四十九日や一周忌といった法事についても、考え方はお葬式と全く同じです。
赤口の日に行うことに何の問題もありません。
前述の通り、火や刃物を連想する日ではありますが、法事でロウソクやお線香を使うことを気にする必要もありません。
何よりも大切なのは、故人を偲び、供養する心です。
【最重要】葬儀で本当に注意すべきは「友引」だけ
六曜の中で唯一、お葬式の日程を決める上で、実務的に注意しなければならないのが「友引(ともびき)」です。
これには迷信と、社会的な慣習という2つの側面があります。
もともと友引は「共引」と書き、「勝負事で引き分ける日」という意味で、吉も凶もない日とされていました。
しかし、いつしか漢字が「友引」に変わり、「友を冥土へと引き寄せる」という語呂合わせの迷信が広く信じられるようになったのです。
この慣習が社会に根付いた結果、日本全国の多くの火葬場が、友引を休業日と定めています。
これは迷信というよりも、社会インフラのスケジュールという現実的な問題です。
そのため、葬儀の日程を組む際は、まず斎場や火葬場の「友引の営業状況」を確認することが絶対条件となります。
(※お通夜は故人と夜通し過ごす儀式であり、火葬は行わないため、友引でも問題なく執り行われます)
《早わかり》六曜と弔事の関係一覧
親族への配慮はどうする? 後悔しないためのコミュニケーション術
理論上は問題ないと分かっていても、現実には親族、特にご年配の方から「そんなお日柄でいいのか」という声が上がるかもしれません。
そんな時、どう対応すればよいのでしょうか。
大切なのは、一方的に「迷信だ」と切り捨てるのではなく、相手の気持ちに寄り添い、丁寧に対話することです。
【対話のステップ例】
- まずは傾聴と共感:
「お日柄のことを心配してくださって、ありがとうございます。気にされるお気持ちはよく分かります」と、まずは相手の考えを受け止めます。 - 物理的な制約を説明:
「実は、火葬場の予約状況を確認したところ、皆が集まれる日はここしか空いていなくて…」など、客観的な事実を伝えます。 - 故人の意志や他の人の都合を伝える:
「故人も生前、お日柄は気にしない人でしたし、遠方から来てくれる親戚の〇〇さんの都合も考えると、この日が一番皆でゆっくりお別れできる日だと思ったんです」と、故人や他の参列者への配慮が理由であることを伝えます。
このように、感情論ではなく、事実と配慮を元に話し合うことで、多くの場合ご理解いただけるはずです。
また、こうした事後のトラブルを避けるために、近年注目されているのが「終活」と「エンディングノート」です。
生前の元気なうちに、自分の葬儀について「お日柄は気にしなくて良い」「この曲を流してほしい」といった希望を書き記しておく。
それだけで、遺された家族の判断の拠り所となり、精神的な負担を大きく減らすことができるのです。
まとめ:情報に振り回されず、故人を想う心を羅針盤に
今回は、「赤口」と葬儀の関係について、深く掘り下げてきました。
結論を改めてお伝えします。
赤口の葬儀やお通夜、法事は、まったく問題ありません。
六曜は宗教とは無関係の、あくまで参考情報です。
本当に注意すべきは、火葬場が休業になる可能性のある「友引」だけと覚えておきましょう。
突然の別れに際し、私たちは様々な情報に触れ、時に不安になることもあります。
しかし、そんな時こそ、情報の意味を正しく理解し、振り回されるのではなく、上手に使いこなす姿勢が大切です。
何よりも尊いのは、故人を静かに偲び、集まった人々が心穏やかに最後のお別れをすること。
その心を羅針盤として、皆にとって最善の日程を選んでください。
それが、故人にとって何よりの供養となるはずです。