暮らしに便利なカレンダー。
その隅に、ふと「赤口(しゃっこう)」という文字を見つけたとき、あなたの心に小さなさざ波が立ったことはありませんか?
「今日、お墓参りに行こうと思っていたけれど、縁起が悪い日なのかな…」
「もし失礼にあたったら、ご先祖様はどう思うだろう…」
結婚式は大安吉日に。
お葬式は友引を避けて。
私たちは昔から、人生の大切な節目を「六曜(ろくよう)」と呼ばれるお日柄で選ぶ文化に親しんできました。
その感覚は、知らず知らずのうちに私たちの心に根付いています。
だからこそ、ご先祖様への大切なご挨拶であるお墓参りの日取りに迷うのは、故人を敬う気持ちが深い証拠。
とても自然で、尊いことです。
そこでこの記事では、お墓参りと日柄の気になる関係、特に「赤口」の日に故人を偲ぶことについて、その真相を徹底的にひも解いていきます。
結論からお伝えすると、あなたのその優しい心配は、もう必要ありません。
日柄よりもずっと大切な「心」のあり方と、ご先祖様が本当に喜んでくれる供養のカタチを見つけていきましょう。
大丈夫!「赤口」のお墓参りを気にする必要がない、その理由
さっそく、皆さんの心にある一番の疑問にお答えします。
赤口の日にお墓参りをしても、まったく問題ありません。
胸を張って、ご先祖様に会いに行ってください。
「でも、赤口って仏滅に次ぐ”凶日”って聞くけど…」という声が聞こえてきそうです。
その通り、赤口は一般的に「万事に凶」とされ、特にお祝い事には向かない日とされています。
しかし、ここが最も大切なポイントです。
そもそも、お日柄の吉凶を占う「六曜」と、ご先祖様を供養する「仏教」は、出発点も目的も全く異なります。
六曜は、元々中国で時刻の吉凶を占うために使われていた考え方が日本に伝わり、江戸時代に民間の間で広まったもの。
いわば、暮らしの中の縁起担ぎやゲン担ぎ、一種の占いに近い存在なのです。
実は明治時代、政府は「暦に書かれた吉凶は迷信である」として一度は禁止しましたが、人々の暮らしに深く根付いていたため、民間の暦の中で生き残り、今に至ります。
一方、お墓参りは、故人やご先祖様への感謝と敬意を伝え、安らかな眠りを祈る仏教の教えに基づく供養の心。
神社の神様とお寺の仏様が違うように、六曜という「民間の占い」のルールを、仏教という「宗教的な儀礼」に当てはめて心配する必要はないのです。
豆知識:赤口の「吉」の時間帯、あえて狙うべき?
赤口には、「午の刻(うまのこく)」と呼ばれる午前11時頃から午後1時頃までの間だけは、鬼が休憩するため「吉」に転じる、という面白い特徴があります。
「じゃあ、そのラッキータイムを狙って行けば完璧なのでは?」と思うかもしれませんが、お墓参りにおいては、この時間帯にこだわる必要はありません。
むしろ、古くから「お墓参りは午前中の早い時間に行くのが望ましい」とされています。
これは、「他の用事を済ませた”ついで”に寄るのではなく、ご先祖様へのご挨拶を今日の最優先事項にする」という、“ご先祖様ファースト”の精神の表れです。
吉凶の時間に合わせるよりも、ご自身の都合の良い午前中に「今日はまず、ご先祖様のところへ」という清々しい気持ちで訪れることの方が、ずっと素敵な供養になるでしょう。
「日柄」より「気持ち」が大切。お墓参りに最適なタイミングとは?
では、日柄を気にしないのであれば、いつお墓参りに行くのが良いのでしょうか。
昔から大切にされてきた時期には、それぞれに美しい意味が込められています。
そして、それ以上に素晴らしいタイミングも存在します。
伝統が教えてくれる、ご先祖様と心を通わす時期
- お彼岸(春と秋の年2回)
「彼岸」とは、仏教の言葉で「向こう岸」、つまりご先祖様がいる悟りの世界を指します。私たちがいる「此岸(しがん)」(こちらの岸、迷いの世界)から、太陽が真東から昇り真西に沈むこの時期は、彼岸と此岸の距離が最も近くなると信じられてきました。
ご先祖様に想いが届きやすい、年に二回のスピリチュアルなランデブー期間です。
- お盆(主に夏)
ご先祖様の霊が、年に一度、私たちのもとへ「お客様」として里帰りされる大切な期間。そのお迎え(13日の盆の入り)とお見送り(16日の盆明け)のために、お墓をきれいに掃除してご挨拶に伺います。
「おかえりなさい」「ゆっくりしていってね」と、家族が集う温かい日本の原風景です。
- 命日・月命日
故人が旅立たれた祥月命日(しょうつきめいにち)や、毎月の同じ日である月命日。それは、他の誰のためでもない、故人とあなただけのパーソナルな記念日。
静かに思い出と向き合い、対話するのに最適な日です。
- 年末年始
一年の感謝を報告し、お墓を大掃除して新年を迎える準備をする年末。そして、「今年一年、どうかお見守りください」と新年のご挨拶と共に、清々しい決意を伝える年始。
人生の大きな節目に、ご先祖様と共にいることを実感できるタイミングです。
「行きたいとき」が、あなたにとって最高の吉日
伝統的な時期はもちろん大切ですが、お墓参りの本質を考えたとき、最高のタイミングは「あなたがご先祖様に会いたくなったとき」「何かを伝えたくなったとき」に他なりません。
- 人生の節目を報告するとき
「大学に合格しました!」
「素敵な人と出会い、結婚します」
「新しい命を授かりました」
そんな喜びの報告を、一番に聞いてほしい相手。それがご先祖様です。
- 日々の感謝を伝えたいとき
「大きなプロジェクトが無事に終わりました」
「子どもが七五三を迎え、こんなに大きくなりました」
特別なことでなくても、日々の暮らしの中で感じる感謝や幸せを分かち合う。それもまた、立派な供養です。
- 心が揺れるとき、力を借りたいとき
「仕事で悩んでいて、どうしたらいいか…」
「ちょっと心が疲れたから、安らぎをください」
誰にも言えない悩みや弱音も、ご先祖様は静かに受け止めてくれます。お墓の前で手を合わせるうち、不思議と心が整理され、明日への活力が湧いてくるかもしれません。
形式にとらわれず、大切な人に会いに行くような自然な気持ちで、お墓を訪れてみてください。
その温かい心が、何よりの供養になるのです。
これって本当?お墓参りにまつわる噂をスッキリ解消!
赤口以外にも、お墓参りにはいくつかの「気になる噂」があります。
この機会にスッキリ解決しておきましょう。
- Q.「友引」は、友を引くから避けるべき?
- A. 心配ありません。
「友を冥土に引く」という考えは、六曜の漢字に後から意味を付け加えたもので、葬儀で避けられるようになったのも比較的最近のこと。ご先祖様に会いに行くお墓参りには、全く関係ありません。
- A. 心配ありません。
- Q.「仏滅」こそ、お墓参りに良くないのでは?
- A. むしろ適している、という考え方もあります。
「仏も滅するような大凶日」と聞くと不安になりますが、元々は「物滅」と書かれ、「古い物が一度滅び、新たに物事が始まる日」と解釈されることもあります。リセットして新たなスタートを切るという意味では、故人を偲び、自身の気持ちを新たにするのに良い日とも言えるのです。
- A. むしろ適している、という考え方もあります。
- Q.「雨の日」のお墓参りは縁起が悪い?
- A. 基本的に問題ありません。
昔は土葬だったため、雨で地面がぬかるみ、衛生上の問題や足元の危険がありました。その名残で「避けるべき」と言われることがありますが、きれいに整備された現代の霊園では、豪雨や雷でない限り大丈夫。
しっとりと濡れた墓地も、風情があって心が落ち着くものです。
ただし、足元は滑りやすいので、安全には十分ご注意ください。
- A. 基本的に問題ありません。
これだけは押さえたい!ご先祖様が喜ぶお墓参りの基本マナー
心を込めてお参りするために、基本的な作法も知っておくと、より清々しい気持ちになれます。
- 持ち物を確認
数珠、お線香、ろうそく、ライター、生花、お供え物、そして掃除道具(ほうき、ちりとり、雑巾、ゴミ袋など)を準備しましょう。手桶やひしゃくは、霊園で借りられることが多いです。
- お参りの流れ
- 寺院へのご挨拶:
寺院の敷地内にあるお墓なら、まず本堂のご本尊様にご挨拶するのがマナーです。 - お墓の掃除:
ご先祖様が気持ちよく過ごせるよう、感謝を込めてお掃除します。敷地内の雑草を抜き、落ち葉を掃き、墓石はたっぷりの水を含ませた柔らかい布で優しく拭き上げましょう。
- お供え:
新しい水を花立に入れ、持参した生花を飾ります。故人が好きだったお菓子や果物などもお供えします。
- お線香と合掌:
ろうそくに火を灯し、その火からお線香に火を移します。香炉にお線香を立て(または寝かせ)、静かに合掌。
近況報告や感謝の気持ちを心の中で伝えます。
- 寺院へのご挨拶:
- 大切な注意点
- お供え物は持ち帰る:
カラスなどに荒らされてお墓が汚れるのを防ぐため、お菓子などの食べ物のお供えは、お参りが終わったら持ち帰るのがマナーです。 - 墓石にお酒はかけない:
故人がお酒好きでも、墓石にかけるとシミや変色の原因になります。お供えする際は、杯などに入れて供えましょう。
- お供え物は持ち帰る:
まとめ:形よりも心を込めて。あなたらしい供養のカタチを
「赤口」をはじめとする六曜は、私たちの暮らしに彩りを添える文化の一つですが、それがご先祖様を思う気持ちの障壁になってはいけません。
日柄の吉凶に心を惑わされる必要は一切ありません。
お墓参りで最も尊いのは、「ご先祖様を思う、あなたの温かい気持ち」そのものです。
きれいな花を飾り、お墓を掃除し、静かに手を合わせる。その一連の行動すべてが、あなたの心を目に見える形にした、素晴らしい供養なのです。
ただし、ご家族やご親戚の中には、昔からの慣習を深く大切にされている方もいらっしゃるでしょう。
もし、複数人でお墓参りに行く場合は、お互いの気持ちを尊重することが大切です。
「念のため日取りをどうしようか」と事前に一言相談する。
その心遣いこそが、家族の和を保ち、皆が気持ちよく故人を偲ぶための鍵となります。
日柄に縛られず、あなたの心が「行きたい」と告げたとき。
それが、ご先祖様にとっても一番嬉しいお墓参りの日です。
どうぞ、あなたらしい供養のカタチを大切にしてください。