夏の風物詩「土用の丑の日」—うなぎを味わう理由とその背景

雑節

暑さが本格的になる頃、町のあちらこちらから香ばしい蒲焼の香りが漂い、思わず食欲をそそられる…そんな風景が毎年夏の恒例となっています。

夏バテしやすいこの時期、栄養価の高いうなぎは、古くからスタミナ源として親しまれてきました。

ではなぜ、私たちは「土用の丑の日」にうなぎを食べるようになったのでしょうか?

この習慣の由来や、うなぎの栄養的な魅力、そして2025年の土用の丑の日の暦について、詳しく見ていきましょう。

2025年「土用の丑の日」はいつ?

「土用の丑の日」は毎年日付が変わりますが、年によっては夏の土用の期間中に丑の日が2回めぐってくることもあります。

そういった年には、1回目を「一の丑」、2回目を「二の丑」と呼びます。

2025年の場合、夏の土用は7月19日(土)から8月6日(水)まで。

この間の「丑の日」は、7月19日(土)と7月31日(木)で、2回訪れます。

「う」のつく食べ物と健康の知恵

うなぎだけでなく、土用の丑の日には「う」のつく食べ物を口にすると良いと古くから言われてきました。

これは、昔の人々が健康維持のために伝えてきた暮らしの知恵のひとつです。

たとえば「梅干し」「うどん」「瓜」など、暑い時期でも食べやすく、さっぱりとした食品が並びます。

こうした食材には、食欲不振の時でも摂りやすく、体にやさしい栄養素が含まれているのです。

また、「土用餅」「土用しじみ」「土用卵」といった名称の食べ物もあります。

いずれも、土用の期間中に体調を整えることを目的とした昔ながらの工夫のひとつです。

「土用の丑の日」とは何か?

「土用」とは、立春・立夏・立秋・立冬という四季の節目の直前、約18日間の期間を指します。

この土用の期間中に訪れる「丑の日」が、「土用の丑の日」と呼ばれます。

干支(えと)は年だけでなく、日や時刻の数え方にも使われており、「丑(うし)」は12ある干支の2番目。

つまり「土用の丑の日」とは、土用期間内にめぐってくる丑の日ということになります。

四季ごとにあるため、1年に最大で4回、丑の日が土用期間と重なることがあります。

なぜ「うなぎ」を食べるようになったのか?その由来

この習慣にはいくつかの説があり、諸説入り混じっていますが、有名なものをいくつか紹介します。

■ 平賀源内のアイデア説

江戸時代の学者・平賀源内が考案したという話が最もよく知られています。

夏にうなぎが売れずに困っていた鰻屋が、源内に相談したところ、「丑の日には“う”のつく食べ物が体に良い」という言い伝えを利用し、「本日丑の日」という貼り紙を店に出すことを提案。

これが功を奏し、売れ行きが急増したと言われています。

「学者が言うのだから間違いない」ということで、他の鰻屋もこれを真似し始め、次第に全国へと広まっていったのです。

■ 狂歌師・大田南畝の説

江戸の風流人として知られる大田南畝(蜀山人)が、うなぎを食べる効能を詠んだ狂歌を広告として用い、その内容が人々の心をつかみ、定着したという説もあります。

「土用うなぎは薬にもなる」といった表現で、食中毒の心配もなく安心して食べられる食材であることをPRしたと言われています。

■ 「春木屋善兵衛」由来説

神田の老舗鰻屋「春木屋善兵衛」が、大名からの注文で3日分の蒲焼を用意したところ、「丑の日」に焼いた分だけが傷まずに保存できた、という逸話も伝わっています。

この出来事から、「丑の日に焼いたうなぎは腐らない」「縁起が良い」として広まったという説です。

■ 万葉集に詠まれたうなぎ

日本最古の歌集『万葉集』にも、うなぎを夏痩せ対策にすすめる歌が見られます。

 「石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻とり召せ」

このように、古代からすでに、うなぎが夏の滋養食とされていたことが分かります。

うなぎが夏バテに効く理由

暑さで食欲が落ちると、どうしてもそうめんや冷やし中華などのあっさりした食事に偏りがちですが、うなぎは疲労回復に必要な栄養素を多く含んでいます。

特にビタミンA、B1、B2、D、そして良質なタンパク質や脂質が豊富に含まれており、体力の消耗が激しい夏にぴったり。

また、風邪の予防や滋養強壮にも効果があるとされ、季節を問わず元気をつけたいときの定番食でもあります。

市場に出回るうなぎの多くは養殖ものですが、夏場の需要を満たしており、一方で天然ものは脂がのる秋が旬とされています。

地域で異なる「うなぎの蒲焼」の調理法

蒲焼の調理には地域差があり、関東と関西ではまったく違うスタイルが楽しまれています。

関東風
背開きにして白焼きにし、一度蒸してからタレをつけて焼く。
ふっくら柔らかな食感が特徴です。

関西風
腹開きにして蒸さずに直火で焼き上げるため、皮はパリッと香ばしく、しっかりとした味わいが楽しめます。

江戸の武士文化では「腹を切る=切腹」を嫌ったため、背開きが主流になったという説も。

また、関東では泥臭さを取るために蒸す工程が必要だったという話もあります。

まとめ

「土用の丑の日にうなぎを食べる」という風習は、ただのグルメイベントではなく、古来より人々が健康や季節の変わり目に気を配ってきた知恵の表れでもあります。

時代は変われど、夏の暑さは今も昔も変わらず過酷なもの。

そんなとき、栄養価の高いうなぎを食べて、体力をつけて乗り切るという知恵は、現代にも十分通用します。

2025年の「土用の丑の日」は7月19日と7月31日。

この日には、由緒ある夏の味覚「うなぎ」を味わって、心も体も元気に夏を乗り切りましょう!

 

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